想定外だった韓流ブーム
- 文 佐久間文子 写真 篠塚ようこ
- 2013年10月21日
![](http://www.asahi.com/and_w/interest/theater/images/TKY201310180220.jpg)
韓国語字幕翻訳/吹き替え翻訳家 本田恵子さん
本田恵子さん(39)が大学で韓国語を専攻したのは
アジアの歴史への興味からで、翻訳者をめざしていたわけではなかった。
卒業後は航空会社に就職。
その後、海外の版権を扱う会社に転職したが、
せっかく学んだ韓国語を使う機会に恵まれなかった。
個人のつながりで依頼された通訳の仕事を少しずつやり始めたころ、
ペ・ヨンジュン主演の「冬のソナタ」が放映される。
「韓流が大ブームになって。たまたま知り合った韓国ドラマの配給を扱う会社の社長さんに、『本田さん、ドラマ訳しなよ』ってすすめられたんです」
韓国からのコンテンツの輸入が急増する一方で翻訳者の数は少なく圧倒的に足りなかった。
最初に手掛けたのは、そのペ・ヨンジュン主演のドラマ「ホテリアー」。
「字幕のついているほかのドラマを『こんな感じでよろしく』と渡されて。
1秒4文字といった字幕翻訳のルールも知らず、『このままでは視聴者に迷惑がかかる』と、
1年ぐらいは英語の字幕翻訳のテキストを読み、猛勉強して翻訳の『ルール表』をつくりました」
その後、英語の字幕翻訳者について勉強もした。
試行錯誤した経験は、いま母校などで若い人に教えるときに役立っている。
初めて手掛けた映画の字幕翻訳はソン・イルゴン監督の「マジシャンズ」。
東京フィルメックス映画祭の出品作で、詩的な表現のニュアンスを引き出すのに苦労した。
医療や軍事ものなど、専門用語が出てくるドラマの翻訳を引き受けることも多い。
「翻訳の中にうそがあってはいけないので、事実として間違っていないかウラをとることもします。翻訳者に一番必要なのは『調査力』って言われるほど調べる時間が長いですね」
1本60分のドラマで1週間。映画の場合は10日から2週間ほどで仕上げる。
「どの仕事も一緒ですけど納期を守るのは大事です。スケジュールが細かく決まっているので、私が遅れるとすべてがずれて関係者に迷惑がかかりますから」
翻訳には字幕翻訳、吹き替え翻訳がある。
字幕の場合は意味を凝縮して短いセンテンスにし、
吹き替えならためいきや背景の音も、すべてを日本語にする。
「伏線や泣かせどころ、この作品がどこを見せたいのか、じゅうぶんに理解したうえでそこをめざして訳していきます。行間をどれだけ読めるかが勝負ですね」
苦労に苦労を重ねたうえで、観る人に意識させない翻訳が理想の字幕翻訳だという。
「もちろん、映画『カサブランカ』で『きみの瞳に乾杯』って意訳したがために
あのセリフは名セリフになって映画も有名になったし憧れますけど、
あの域に到達するにはこれから20年ぐらいかかるかもしれません(笑)」
来年3月開催予定の「新大久保ドラマ&映画祭」のプログラムディレクターをつとめる。
一時の韓流ブームが去ったあとで、新大久保の魅力をアピールし、もり立てていこうと
飲食店経営者らが実行委員会をつくった。
反韓デモなども行われるなか、文化交流による町おこしを打ち出すタイムリーな企画だ。
「韓流ドラマを観る人が映画も観るとは限らない。
より、リアルな韓国を描く映画もぜひ大勢に見てほしいから、
いろんな人が見て楽しめる、多彩な作品を選ぶつもりです」